生産性と内外価格差

日本の物価は高いといわれているけど, 実際に個別のものを見ると,高いものもあるけど,むしろ安いようなものもある. この差は実はその物品の生産性に起因している.

各産業の生産性は,アメリカとの比較で, 自動車,電気機械が120〜130%と最も高く, 鉄鋼,化学が100%を超えている. しかし,この4分野以外はすべて100%を下回っていて, 最低の農業は1/7しかない.

したがって,たとえばトヨタ自動車の従業員は 世界でも最高水準の給料をもらっていいことになるのだが, 他の分野の労働者と労働市場をシェアしているため, 他分野の労働者の給与もトヨタ自動車の従業員の給料に引きずられて上昇してしまうことになる.

これが価格に転嫁されることにより,内外価格差となって観測されるという仕組みである.

生産性が低い産業に従事している人が努力していないわけではない

たとえば,銀行やデパートでは,客の待ち時間を5秒短縮するというような, 強烈な改善を行っていた.

しかし,そういう改善は厳しいけど,付加価値を生みにくい. 銀行の窓口のお姉さんがものすごい集中力でお客一人にかける時間を5秒短縮するより, 24時間使えるATMを設置する付加価値のほうが高いからだ. さらに,たとえば,銀行窓口で株式取引もできるようにするとか, インターネットで取引ができるようにするというような根本的な改善の前では無力に等しい.

松下幸之助さんは“3%改善するのは難しいけど,30%改善するのは簡単だ”という名言を残しているけど, これがまさに“発想の転換・根本的な変革が生み出す付加価値は絶大だ”という意味だろう. こういう考え方こそが世界の松下電器産業を作り出し, 日本国民を内外価格差のない安くて良質な家電品で潤すことができた根拠だろう.


はたいたかし
2006-07-29
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