害虫・害獣.病原菌を媒介する動物のことをベクターという(“運び手”,“運び屋”みたいな意味). 日本語では数学のベクトルの意味にしか使わないが(英語でもベクトルの意味が第1義), 英語ではもう少し広い範囲に使われているみたい.
ベクターの原義は「運ぶ・方向を与える」という意味らしく, 転じて病原菌を運ぶ昆虫や数学のベクトルの意味に使われるようになったと考えられる. 日本語でもサイエンス番組などでは,DNAの話をするときなどに「遺伝子運搬物質」というような意味でベクターと使ったり, 動物が何かをするきっかけになる「誘引・動機」の意味でベクターという語をつかっている.
疫病などの運び手の意味のベクターは,適当な日本語がないのでわりと専門用語っぽい感じに思われるかもしれないけど, 実際には普通の人でもわかる語のようで, たとえば映画 “不都合な真実” (An Inconvenient Truth) の中でゴア元副大統領が聴衆(もちろん普通の一般市民)に地球温暖化の悪影響を説明する際に マラリアなどの疫病を運ぶ蚊に対してベクターという語を使って説明していたが,特に用語の解説などはなかった. [不都合な真実の中では次のような説明の中で使われていた: 地球温暖化の影響では,北極や南極の氷がとけて海抜があがり海抜の低い都市が沈没してしまうというような話がよく出てくるのだけど, 実際には海だけではなく山岳地帯にだって影響はある. 世界の山の中には,ある標高より上にだけ都市が形成されていて,その標高より下には都市が形成されないという特徴をもっている地域がある. これはその標高が蚊が生息できる限界高度になっているからで,その標高のことを“モスキート ライン”と呼んでいたりする. 地球温暖化が進むと気温が上昇にともなって蚊の生息できる限界高度も上昇してゆき,モスキートライン付近に形成された都市は疫病で苦しむことになるだろう. …そういえば,地球の温度が何度だか上昇すると日本列島もマラリア蚊の生息域になるとかいう話がありますけども.]
殺虫剤などのパッケージを見ると, ant, roach, moth など具体的な名前が書いてあって, 日本語の「害虫」に相当する語(害虫を総称するような表現)は見つけにくい(殺虫剤は何にでも効くものは少なく,特定の虫をターゲットにしているため,これはある意味当たり前かも. 害虫全般が駆除できると書いてしまうと商品説明としてはいきすぎな感じだから).
見かけが気持ち悪いだけで,特に害がない虫(たとえばヤスデ)は nuisance /ニューサンス/ と呼んだりする.「迷惑行為」という意味(こちらは一般的な語).
単語 | 意味 |
---|---|
vehicle | 乗物,輸送機関の意味のほかに「手段・伝達手段・媒体」の意味がある.vectorと同じく「運ぶ」が原義. |
nuisance | 迷惑行為.嫌な虫(害虫). |
nuisance value | 嫌がらせ効果,抑制的効果. |
mean ants |
不愉快なアリ. ※mean には3種類の語がある. (1)〜を意味する, (2) 卑しい・不愉快な, (3) 平均・中間の. |