図1の詰将棋は何手詰めでしょうか?
図1 例題1 |
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簡単ですよね.▲2三金までの1手詰め.
え? ちがう? ▽1ニ歩と受けて▲同金までの3手詰めだろって?
結論からいうと,▲2三金の1手詰めが正解です.これは,詰将棋には「無駄合いをしない」というルールがあるためです.しかし,このルール,どうも初心者の方には わかりづらいらしく「みなし詰み」ではなく「ちゃんと詰みまで指すべきでは?」という疑問をもたれることがあるようです.
ある程度 詰将棋(≠将棋)に慣れている方だと▲2三金が いわゆる「合い効かず」の状態で終了と考えるわけですけど,これは詰将棋だけの独特のルールで,通常の将棋=本将棋のルールでは▽1ニ歩と受けてかまいませんし,実際受ければ相手が応手を間違える可能性はゼロではないので,詰将棋でも同様に「合い効かず」の状態になっても合駒して最後まで指すルールにした方が紛れがないともいえそうです.
実は この「無駄合いNG」のルールが詰将棋にだけ存在しているのには,ちゃんとした理由があります.以下にその理由を説明します.
まず「ムダ合いとは何か」と「ムダ合いNG」のルールについて確認しておきます.詰将棋パラダイスの詰将棋の基本ルール7を引用しておきます.
つまり打ったばかりの駒をとられるだけで玉方の状況が打開されないものを「ムダ合い」と称して,そういう応手はダメですよ…という説明になっています.
次にルール7「ムダ合いNG」のルールがどうして必要なのかについて考えてみます.
上記の詰将棋パラダイスのルール説明図を改変して図2のような詰将棋を作ってみました.
図2 例題2 |
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解けましたか? 簡単な1手詰めですよね.
図3 ムダ合いNGのルールがある場合,▲2五銀の開き王手で1手詰め. |
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では,同じ問題で「ムダ合いNG」というルールをなくしたら…つまりムダ合いOKにしたらどうでしょう?
いやいや,それでも▲2五銀で詰みやろ…って思った人は完全にワナに引っかかってしまいました.というのが,詰んではいるのは間違いないのですが,ムダ合いをしてよいルールにかわったので,▲2五銀の開き王手に対して▽1八歩▲同香▽1七歩▲同香…と,ビシバシ無駄合いされて手数をかせがれ,なんと15手詰めという長手数になってしまうのです.したがって,最短手数で詰めなければならないという別のルールにより,間違いになってしまいます.
というわけで,ムダ合いOKのときの正解は
▲1二金▽同玉▲1三銀成▽1一玉▲1二成銀の5手詰め
ということになります.初手の▲1ニ金と捨てる手が ちょっとだけカッコイイですけど,ムダ合いNGのルールがあったときの▲2五銀の1手詰めのような「なるほど感」はなくなって,単に俗手を連発するだけの問題になってしまいました.
図4 ムダ合いOKの場合は初手▲1ニ金と捨てる5手詰めが正解になる. |
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また,ムダ合いできる回数を減らすため図5のように香車を近づけておいても,▲2五銀▽1四歩▲同香▽1三歩▲同香▽1二歩▲同香成と,まだ7手かかってしまい,やはり開き王手の手順は不正解のままです.また,この図5の配置は香車を近づけたこと自体が,ははぁ〜ん,さてはムダ合い回数を減らさないと正解に誘導できないのだね?(あるいは香車が遠くに打ってある場合はムダ合いで手数が伸ばせるのでそっちは正解じゃないのだね?)とヒントを与えてしまうことになってしまう問題点もあります.
図5 |
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ここまでの例を見てわかった「ムダ合いNG」のルールがない場合の問題点は下記のようなものかと思います.
というわけで,詰将棋の学習的な意味合いや謎解き的な美しさを維持するために「ムダ合いNG」のルールが必要になっているわけです.
[1] | 詰パラ: 詰将棋の基本ルール |
[2] | 駒余りルール…同手数の場合,攻め方の駒があまらないように受ける手を正解にする規則.普段は どちらでも詰んでいるので「だからどうしたの?」ですけど,大会や懸賞では駒余りは間違いになります. |
[3] | 詰将棋のルール 作り手側のルールも含めて よくまとまっています. |
[4] | 詰将棋パラダイス 詰将棋専門月刊誌『詰将棋パラダイス』の公式ページ.詰将棋の詳細な規則等は事実上「詰パラ」が決めてるようなもの… |
[5] | Wikipedia: 詰将棋 |
[6] | よくある質問 - 棋譜の表記方法 |